2011 01
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ナパヴァレーの中心地、Oakville、Rutherfordを抜け29号線を更に北へ進むと両側がブドウ畑から賑やかな商店街へと変わりダウンタウンの中に入る。この辺りがSaint HelenaというAVAの入り口にあたり、そこから車で10分も走れば温泉でも有名なCalistogaに入る。
ダウンタウンを抜けて、豪華絢爛なワイナリー、Beringerの前をマイナスイオンたっぷりの並木通りに癒されながら通過すると、だんだんと両側の山脈が中に押し寄せてくるように狭まり平地の面積が小さくなる。
当然、平地に植えられるブドウは少なくなるが、このSaint Helena、Calistogaにはナパを代表する高級ワイン又はカルトワインがひしめき合っている。
まずSaint Helenaには、Grace Family、Revana、Jones、Vineyard 29、Hourglass、David Abreu(Madrona Ranch、Thorevilos)、Colgin (Cariad、Tychson Hill、Herb Lamb(2007年まで))など、Calistogaには、Araujo、Switchback Ridgeなど、ざっと思い浮かべただけでも、とてつもない面々だ。
これらに加え最近では、Seven Stones、Realm、Anomalyなどの新しいワインも高級ワインの仲間入りを果たし高い評価を受けている。
では、これら高級ワインを生み出すこの二つのアペラシオンのテロワールはどういうものなのか?
RutherfordとOakvilleの項で述べたが、北と南では差はほとんど見いだせない。理論的には、ナパヴァレーでは北へ進むほど平均気温は上がるのだから、CalistogaのワインはRutherfordやOakvilleよりも力強くなるはずだが、決してその様な事は感じられない。
しかし、RutherfordとOakvilleの時と同様に東と西で比べれば違いが見えてくる。力強い西日に照らされる東側、特にHowell Mountainとの境界線付近の斜面の畑は山のワインを彷彿とさせる骨太なストラクチャーが印象的なワインとなる。AbreuのThorevilos、ColginのHerb Lambなどはその典型だろう。この二つほど高額ではないが、クラシックなFormanのカベルネもタンニンの骨格がしっかりとしていてこのテロワールを表している。
逆に、穏やかな朝日を浴びる西側には、Vineyard 29やHourglassなどが挙げられ、力強い中にもなめらかさ、優美さを呈する。
ただ、現在これらのワイナリーがSaint HelenaとCalistogaを代表するワインとして華々しい扱いを受けているが、歴史的にみれば、Spottswoode Cabernet Sauvignon(Saint Helena)とChateau Montelena Cabernet Sauvignon(Calistoga)がそれぞれのアペラシオンの名声を築いた事に大きく貢献したワインとして忘れてはいけない存在だ。
Spottswoodeは華やかなSt. Helenaのダウンタウンにほぼ隣接し、畑の周りは住宅地に囲まれている。ボルドーファンならChateau Haut Brionを思い起こさずにはいられないだろう。立地の面でもそうだが、飲めばまさにカリフォルニアのHaut Brionと呼んでも過言ではない。
畑は29号線の西側に位置し、ちょうどマヤカマス山脈の麓に位置する。日中はカリフォルニアの力強い太陽をさんさんと浴びるが、ブドウが成熟する時期の午後の4時ぐらいには太陽が西に傾き始めマヤカマス山脈の影にすっぽりと覆われブドウはクールダウンする。また、この山の上部はSpring Mountainという別のアペラシオンになるが、そこに一部凹んだ所がありそこから冷たい海風が侵入し山を下りるようにSpottswoodeの畑に入り込む。
これがブドウの酸を維持することを助けゆっくりとブドウが成熟することを可能にする。また、過度にアルコールが高くなりかつ異常なほど糖度や果実味が凝縮することもなくバランスが保てる。
出来上がったワインは、熟したカシスやブラックチェリーの豊潤な果実味を呈しまさにカリフォルニアの太陽を感じるが昨今流行りのカベルネの様ないやらしさはない。バランスの取れた酸のお陰でフレッシュさを常に保つ。口中ではしっかりとした骨格を感じるがタンニンは柔らかく山のワインのように決してアグレッシヴな攻撃をしかけない。Howell MountainのDunnを男性的なChateau Latourに例えるなら、Spootswoodeはまさに女性的なChateau Haut Brionと言えるだろう。熟成させれば、カリフォルニアらしい果実味が円熟さを増しながらうまみに発展し、かつクラシックな熟成したカベルネ特有の葉巻や枯葉といった心を落ち着かせる趣ある風味を呈する。
一方、CalistogaのChateau Montelenaは1976年のパリ テイスティングにおいて一躍有名になった事は古いカリフォルニアワインファンであれば知っているだろう。
シャルドネ対決でブルゴーニュの代表銘柄を打ち破った訳だが、実はこの時のシャルドネはAlexander Valley(お隣のSonoma)とOak Knoll(ナパの南に位置する涼しいアペラシオン)のブレンドでありCalistoga産のブドウではない事はあまり知られていない。現在はAlexander Valley産のブドウは使用しなくなり、Oak Knoll産のもののみで生産しており、涼しい気候のシャルドネらしくエレガントなスタイルだ。
この歴史的偉業の為にChateau Montelenaと言えばシャルドネという印象が強いが、実はこのCalistogaで取れたカベルネはまさに伝統的な昔からの(90年代前半までの)カリフォルニアワインの味わいを醸し出す。(シャルドネも同様に伝統的なスタイルを維持している。One Bridge Wine)
特にEstate物は長熟であり10年の歳月を経てやっと本領を発揮してくれる代物だ。昨今流行りのモダンな高級カベルネ(特にここのご近所のカベルネ)が若くても飲める事を売りにしているが、それとは対照的にクラシックな作り、長い熟成による深みを楽しみたいのならこのワインはお勧めである。
ナパらしい熟したブラックベリー、カシスの凝縮した芳醇な果実味に熟成したカベルネ特有のシガーボックスや枯葉のニュアンスが溶け込む。口中では細かく密度の高いタンニンと、モダンなカベルネには欠如しがちな存在感のある酸がおおらかで膨らみのある果実味を引き締める。
ボルドーともモダンなカリフォルニアのカベルネとも異なるカリフォルニアの伝統的な味わいを心から堪能できるだろう。
これら二つの歴史あるワインは昨今ではなかなか飲む機会が少なくなってきている。どの分野にも共通した事だが、どうしてもファッショナブルな新しいものに惹かれがちだ。私自身も新しいワインを探し当てればワクワクするし、それが時代の最先端の味わいを呈していれば興奮を覚える。
ただ、長い歴史と伝統による変わらないものの奥深さを時よりしみじみと感じたくなる事も事実だ。
Saint Helenaの街にはモダンな高級住宅が多くみられ、他の州や国から新しいライフスタイルを求め移住してきた富裕層が優雅に暮らしている。だが、そこにはナパヴァレーがファッショナブルなライフスタイルの象徴になる以前から、昔と変わらずに本来のナパヴァレーの生活を楽しみながら静かに暮らしている人も少なくない。
トスカーナスタイルの派手な屋敷のプールサイドのテラスで超高級ワインを手渡され、豪快にビジネスの成功話や贅沢なライフスタイルの話を聞けば圧倒されるワクワク感がある。
しかし、昔ながらのナパヴァレーの、又はカリフォルニアの昔からある田舎暮らしのライフスタイルを、古びた暖炉の前で安物のジンファンデルを片手に聞くと、熟成したSpottswoodeやChateau Montelenaのような、ホッ落ち着かせてくれる奥深さが心に染み込む。

千葉和外 Kazuto Chiba
1972年6月生まれ。
92年 都内フレンチレストランに入店。ウェスティンホテル東京を経てカリフォルニア州ナパヴァレーカレッジ修了後「オーベルジュ ド ソレイユ」に入店。07年帰国後、西麻布「サイタブリア」シェフソムリエとして2年半勤め、現在は麻布十番のフレンチレストラン「Hortensia(オルタシア)」にてチーフソムリエを勤める。
The Court of Master Sommelier認定Advanced Sommelier
第六回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト
ワインスクール アカデミー デュ ヴァン講師 アメリカワインクラス担当
フレンチレストラン「オルタシア」(麻布十番)のページはこちら
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