2011 11
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ソノマ郡の北にHealdsburg(ヒルズバーグ)という小さなダウンタウンがある。この街にはファーストフードやチェーン展開をしている店がほとんどなく、もう一つのアメリカをごく身近に感じられる。
とは言え、南部で見かけるカウボーイがサッソウと入ってくるような荒々しいバーが乱立しているのではなく、逆に、落ち着いたカフェやレストラン、小さく拘った雰囲気のあるブティックなどが並び、そこのオープンカフェでコーヒーを飲みながら通り過ぎる人たちを眺めていると、何もしていない事に充実感を覚え有意義な時間を過ごせる。何かしていないと時間の無駄だと感じてしまいやみくもにPCを取り出してしまう都会のカフェとは正反対だ。
さて、そのHealdsburgでブランチを楽しんだ後にほんの少し車で北西に進むと、のどかなワイン産地に入る。そこがDry Creek Valleyだ。
両側を山に囲まれ、中央にワイン畑が広がる風景はどことなくNapa Valleyに似ているとも言えるが、実にのどかであり、観光客とそれを迎える観光化された大規模なワイナリーがひしめくNapaとは趣を異にし、むしろ日本の田舎の田園地帯を思い出させる。
気候的にはやや涼しいと言えるが、ちょっと南でPinot Noirで有名なRussian River Valley(ルシアン リヴァー ヴァレー)程ではないし、霧の影響はほとんど受けない。
だからと言ってCabernet Sauvignonが熟す程温暖でもなく、育つには育つが特筆に値するような代物はあまり作られていない。Zinfandelで有名なRafanelliも作っているが、Napaのものと比較するとよりフレッシュな果実味があり、かつミントやユーカリの香りが感じられる事からボルドー好きにも勧められる。
ただ、やはりこの地を代表するブドウは何といってもZinfandelだろう。そして、この地の作り手達がもっとも誇りを持っているブドウ品種だとも言える。
スタイル的には、濃厚で樽の風味が強くアルコールが高くアピール性があり高級感をかもし出し、ワインショップでもれなく高得点ポイントの札が桁違いの値段を無理やり正当化させるために艶やかに飾られた流行りのZinfandelとは一線を置く。
また、近くのRussian River Valleyで取れるZinfandelの様な、Pinot Noirに共通するエレガントさを持つわけでもない。
柔らかく滑らかなテクスチャーはお隣のAlexander Valleyと共通するが、一本筋が通っておりそのバックボーンを滑らかな果実味が覆う。その果実味もZinfandelらしくジャムっぽさはあるが、もっと暖かい産地のZinfandelの煮詰めたような甘さを主張するものではなく、フレッシュさも同時に感じる。ちょうど新鮮でみずみずしいベリーにほんの少しラズベリーのクーリ(ピューレ状のソース)をつけたような印象を受けるだろう。
収穫時期を遅くし濃厚に仕上げ新樽を使いアピール性を高めようとする派手な作り手はごく稀であり、良い意味で田舎臭さが伝わってくるワインだ。
様々な生産者がいてそれぞれ個性豊かだがこのDry Creekの個性は皆な共通している。
David Coffaro、 Lambart Bridge、 Nalle、 Rafanelli、 Pezzi King、 Preston、 Quivira等など・・・。
全て車ですぐ回れる距離にあり、味の印象を忘れる前に次ぎのワイナリーに行けるから、比較テイスティングには最適だ。どこも豪華なテイスティングルームなどないが、素朴だが趣のある雰囲気はどことなく近くのダウンタウンHealdsburgと共通しており、それがワインのスタイルの表現そのものにもなるから面白い。
上記のワイナリーのZinfandelは、大体が日本でも入手は可能であり、そうでないものでもアメリカの大都市に行けばお目にかかれる。ただ、その素晴らしさがちゃんと伝えられていないのか、あまり人気のあるワインではないようだが・・・。
特筆すべきは、この地元に行かなければなかなかお目にかかれることはなく、Napa Valleyで働いていた時でさえ簡単には手に入らなかったワインがある。Napa Valleyで働くソムリエでさえ認識できたのはごく一部で地元密着型のワイナリーだと言える。
ただ、地元での評判は他の追随を許さず、どのワイナリーに行っても、"必ず寄って行きなさい!!!"と勧められる。
Bella(ベラ)というワイナリーで、まさにDry Creekの秘宝と言えるだろう。
このワイナリーを訪れた時にじっくりとテイスティングしたが、まさにその味わいは、前述のこのDry Creekの個性を忠実に表しており、更に透明度が高くより鮮明に口中でテロワールが大きくこだまする。
前回紹介したSausal(ソーサル)と飲み比べればそのテロワールの違いを明らかに感じる事ができるだろう。また、流行りの高級Zinfandelと比べれば、このブドウ品種に厚化粧は必要ない事をまざまざと見せつけられる。何とか東京で再会したいものだと常々願ってはいるが未だにお目にかかれない。非常に残念だし思い出すと懐かしさでいっぱいになる。
東京のスタバに入れば、都会の喧噪を一瞬忘れさせてくれる錯覚を起こす。一瞬癒されるがまたすぐに現実に帰る。それはスターバックスというトップ企業により計算され尽くされ作り上げられたオアシスだからかもしれない。ありがたいが都会ではこれが限界だろう。
しかし、Healdsburgの小さなカフェでは、駆け引きのないピュアで透き通った飾り気のない美しさが心を優しく包んでくれる。
ふとそのカフェが東京にあったらと思う時もあるが、もしかしたら、この大都会では物足りなく感じてしまうのではとも感じる。
そして、それがこのBellaという駆け引きのないピュアなZinfandelに東京という都会でお目にかかれない理由なのかもしれない。

千葉和外 Kazuto Chiba
1972年6月生まれ。
92年 都内フレンチレストランに入店。ウェスティンホテル東京を経てカリフォルニア州ナパヴァレーカレッジ修了後「オーベルジュ ド ソレイユ」に入店。07年帰国後、西麻布「サイタブリア」シェフソムリエとして2年半勤め、現在は麻布十番のフレンチレストラン「Hortensia(オルタシア)」にてチーフソムリエを勤める。
The Court of Master Sommelier認定Advanced Sommelier
第六回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト
ワインスクール アカデミー デュ ヴァン講師 アメリカワインクラス担当
フレンチレストラン「オルタシア」(麻布十番)のページはこちら
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